ここでは, 大気に対するニュートンの運動の第2法則, すなわち運動方程式について考えてみる.
気象学でよく用いられる座標系は東向きに正の\(x\)軸, 北向きに正の\(y\)軸, 鉛直上方に正の\(z\)軸をとった直交直線座標系である.
したがって, 風(すなわち空気塊の速度)を表すベクトルは, 東西方向の成分, 南北方向の成分, 鉛直方向の成分の3つに分解することができる. 普通, この3成分を\(u, v, w\)という記号で表す.
気象学に特有なことであるが, 温帯低気圧や高気圧に伴って吹く風としては, \(w\)は\(u\)や\(v\)に比べると2桁か3桁も小さい. これはもっともなことで, 高・低気圧のような現象は対流圏内で起こるため, 鉛直方向の広がりは\(10\mathrm{\, km}\)程度である.
一方, 水平方向の広がりは数百〜数千\(\mathrm{\, km}\)もある. つまり, 大気の運動は一般的に非常に薄い空気の層で起こるので, 鉛直方向の速さが水平方向の速さに比べて小さくなるわけである.
それゆえ, 一般に, 風速計やラジオゾンデによって計測される風速というのは, 風ベクトルの水平成分\(\sqrt{u^2+v^2}\)を指す. 例外は, 山岳の近くや積乱雲・竜巻の中の風速で, そこでは\(w\)が\(10\mathrm{\, km}\)を超えることも珍しくない.
ある物体の質量を\(m\), その加速度を\(A\), その物体に働いている力を\(F\)とすれば, 運動の第2法則は, 次式で書ける.
\[ m\boldsymbol{A} = \boldsymbol{F} \]
太字で書いた量はベクトル量を表す. たくさんの力が同時に働いている場合には, 右辺の\(\boldsymbol{F}\)はすべての力のベクトル和になる.
大気という流体に運動方程式を適用する場合は, 運動方程式を適用する空間的な範囲を定義する必要があるが, 一般的には, 単位面積\((1\mathrm{\,m^3}\))の空気塊を対象として運動方程式を立てる.
この場合, 運動方程式の質量\(m\)は, 密度\(\rho\)に置き換わる.
また加速度\(\boldsymbol{A}\)は速度\(\boldsymbol{V}=(U, V)\)を時間で1回微分した量であり, また位置\(\boldsymbol{X}=(X, Y)\)を時間で2回微分した量でもある.
こうして, 運動方程式を東西, 南北の各成分に分けて書けば次式となる.
\[\frac{dU}{dt} = \frac{F_x}{\rho} \]
\[ \frac{dV}{dt} = \frac{F_y}{\rho}\]
\[\frac{d^2X}{dt^2} = \frac{F_x}{\rho} \]
\[\frac{d^2Y}{dt^2} = \frac{F_y}{\rho} \]
加速度\(\boldsymbol{A}\)や位置\(\boldsymbol{X}\)よりも速度\(\boldsymbol{V}\)を計測するのが最も容易であるため, 実用的には運動方程式(速度の1回微分の形)がよく使われる.